師匠
「ひょうたんで地域おこし」とやりかけたところって日本全国に結構あるんですよ。
イシワタ:私がいる福知山の三岳地区もそのひとつで、今も「ひょうたん王国みたけ」っていう看板が出てます。26年前に、住民同士の交流をつくる目的で全世帯に3粒ずつタネが配られたそう。「ひょうたんで地域おこし」ってそもそも商品が爆発的に売れて所得が増えてとかそういう発想じゃないはず。やってるうちにひょうたんが可愛くなって楽しくなっちゃうってのがメインだと思うんです。
M
僕も最初わからなかったんですけどね、なんとなくいじってると、これがなんとも言えずなまめかしい丸みもあって、つい愛してしまうんですよ。マラソンでランナーズハイになるみたいな感じでひょうたんハイが訪れるんです。
イシワタ
そう。突然「ひょうたんがね」って話されたら普通の人はドン引きするわけですけど、愛してしまった人とそうでない人の温度差がたまらなくおもしろいなと思ってるの。
S
京丹後の別の地区ですけど、趣味で長いことひょうたん作っておられたおじいちゃんが亡くなって。ご家族がそれを処分するというから譲ってもらって、「ほしい人は持って帰ってね」ってずいぶん配って、最後に残ったものはイシワタさんに全部持って帰っていただいきました。
イシワタ:はい、いろんな人から不要なひょうたんを集めております。ひょうたんを見るまなざしで世の中を見ると全部ひょうたんに見えてきますね。
M
そうですね、イシワタさん自身がひょうたんじゃないかって。
Y
私はまだそんなに愛してないけど、まあ、ひょうたん好きな人に悪い人はいないよね。
イシワタ:好きになっても利益とかはないもんね。何か悪いこと企んでる人は関わらないだろうね、無駄の極みというか。
S
でもひょうたんといえば秀吉やんな。
イシワタ
そうか・・・時代を遡ると若干悪そうな人も関わってくるな・・・。私はひょうたん畑つきの福祉施設を作るのが夢なんです。若い頃ひょうたんを愛でていた人たちが歳をとって、あるいは私のような畑能力ゼロの人がやってきて、それぞれが個別の畑を維持する力はないとしても、一緒になら、できるかもしれない。畑といっても生産性に焦点を当てるのではなくて、できた、可愛い、楽しい、これで何しよう、みたいなことを共有するところから始めたくて。
C
楽しいことしたいね。ひょうたんの水筒でお茶飲みたいな。
M
食べられないし、育てるの大変だし、役に立たないと言われているひょうたんを愛し、その可能性について考える。これって新しい福祉につながっていくんじゃないかと僕思ってるんですよ!つまり、子どもやお年寄りや障害者と向き合う福祉の現場でひょうたんを考えることは非常に有意義なんじゃないかと!
T
ネットで調べたら下手に食べられるって書いてあるけど食べたら下痢がものすごくて止まらないらしいね。
師匠:もともとは実用的に使われてました、原種はアフリカで、食器や楽器の起源だった。ヘルメットでかぶったり、ジャングルに入る時に身を守るものになって。プラスチック以前ですよね。プラスチック廃止にして全部ひょうたんにすればそれこそ「地域おこし」になりますね。
S
ところで、冥土のみやげって話ですけど、ご葬儀の時に棺桶に花ばっかり飾りますよね。そこにひょうたんを入れたらどうかと思って・・・浮かぶから三途の川も渡りやすいし、かざりにもなるし。冥土のみやげに三途の川が渡りやすいですよって。
イシワタ:それ!!!その「地域おこし」がいちばんいいじゃないですか!
T
「ひょうたんからこま」ってどういう意味なの?
イシワタ
こま(駒)は馬のことで、ひょうたんの中に馬をしまっているおじいさんの話からきてて、意外なところから意外なものが出ることとか、ふざけて言ったことが実現することとかの意味だそうです。
T
「ひょうたんなまず」ってのもあるよね。
師匠
あれはぬるぬるしたものをひょうたんで抑えつけるなんてことはできない、とらえどころがないって意味。「ひょうたん川流れ」はうきうきして落ち着きがないこととか、あてもなくぶらぶらしていること。要は意思がないってこと、中が空っぽだからね。それが中国では、ひょうたんの中にとてつもない宇宙が広がってるっていう思想につながるんだよね。馬がいたり孫悟空が中に閉じ込められたり。軽くて空っぽで中身がない、自意識がない、だからこそ許容量がある、という。考えても意味がないってこと。
イシワタ
いやあ。哲学的ですね。
師匠
中心がひとつじゃないってこともあるね。あと、多少乱暴に扱っても壊れないですね、軽いから。重いと割れちゃう、人生も。
イシワタ
どうしましょう。これからのひょうたん人生。
師匠
流れるしかないですね。
音楽を「おんらく」、楽器を「らっき」と位置づけ、つねに「楽しさ」の視点からオーガニックなサウンドとグルーヴを追求するパーカッショニスト。90年頃から、地域、学校、福祉施設での音楽講座を開始。2015年よりNPO法人「劇研」地域プログラムディレクターとして、京都市左京東部いきいき市民活動セン ターで、盆踊り大会など音楽による地域社会の活性化、音楽の地産地消を 企てる。
1983年横浜市生まれ、福知山市在住。慶應義塾大学で「スピリチュアリティにまつわる社会学」を学んだのち、2007年から2009年にかけて、スペイン北部バスクやベルリンで絵画やパフォーマンスなどの創作活動を行う。2015年以降、京都府北部~広く山陰地域=「このあたり」を舞台に、さまざまな人が力を持ち寄ってとにかく生きようとするプロジェクト「山山アートセンター」構想を展開。2018年より高齢・障害・児童の複合福祉施設Ma・ RooTs(みねやま福祉会/宮津市)広報兼アートコーディネーター。