山山アートセンターって何だろう?#01【滝町昌寛さん(マッチ売り・ 絵描き)インタビュー】 | Yama Yama Art Center

人はそもそも「展示」なんて見たいのか?

イシワタ(聞き手)
山に頼るところから始まった山山アートセンターとしては、山に軸足を置いた「山伏」の滝町さんの存在がいつも嬉しくて。展覧会「このあたりの宇宙」でもお世話になりました。お世話になっておいて早速なのですが、私、反省してるんです。とっておきの作家が集結してくれたのに、やってみた結果、私のやりたいことはこういう展覧会では表せないとわかってしまったんです。あの顔ぶれを出会わせたかったんですよ。でも展示だとその「出会い」の良さとか関係性が全然表せなくて・・。

滝町
なんかそういう感じはするよね。そもそも、みんな展示とか見たいんかな?

イシワタ
それも考えちゃった。まぃまぃ堂には皆さんお茶をしに来てるわけじゃないですか。

滝町
例えば、今僕は家の襖を自分の絵にしようと思ってるんやけど、それはもう展示ではなくて家の風景やん。そんなんやったら僕は見たいけど、展示ってもともと興味ないんだよね。大学生のなんとか展 ※1とか、表現がきついやん。

うらぶれたゲーセンで生き生きと輝く人の表現

イシワタ
美術館とかにはもともと行かない?

滝町
行かない。そんなに「人の作品」に興味ない。

イシワタ
あ、そう?でも「人」には興味はありますよね?

滝町
うん。最近よかったのが、暗くて古いうらぶれたゲームセンターの奥のほうで、ちょっともっちゃりした中学生の女子がリズムゲーム ※2を素早く叩いていた姿。全くミスがなくてかっこいいねん。土曜日の午後にたったひとりで、そこはその子のステージやねん。それを見れてよかった。そんなんが好き。その人が生き生きと表現しているのが好き。

イシワタ
それすごい分かります!!!そういうことだよ!!!

「正しさ」とは別の「人間らしさ」

滝町
イシワタさんって僕に近い要素があって。クールにかっこよく決められなくて、泥の中でバチャバチャもがいてる感じやねん。人間って、「正しいけどそういうわけにはいかん」みたいなこととかあるけど、イシワタさんは動きや話し方に、正しさとは別の人間らしさみたいなもんが表現されてる。周りの人も、イシワタさんが言ってるし仕方ないか・・・ってなるんやけど、それは人徳だよね。

イシワタ
そう、私のすべては周りの人のおかげで成り立っております・・・。私は何のプロでもないんです。全ての事柄の素人なのにやろうって 言っちゃう、っていう度胸だけで生きてます・・・。 今回の展示で、一番楽しかったのが実は搬入。台風のあとで、さすが福知山って感じの水害で。大江町の新井厚子さんが陸の孤島(ご自宅)から出られなかったり、山形歩ちゃんが泥だらけの車でやっとこさ上世屋から到着したりとか、めちゃめちゃドラマチックで、一人到着するたびに感動があって。で、展示が完成した時は感激と同時に「あ、終わっちゃった・・・。」みたいな。結局、プロセスが好きなんだと思うんです。

滝町
言うことは分かるね。分かる人多いと思うよ。

イシワタ
私がしたいことってもっと…演劇的とでもいうか…。

滝町
そうやねん。それちょっと、黙ってようかなと思ってたんやけど。

いろんな境界を越えてキラキラ光ってる部分だけを拾う

イシワタ
滝町さんにとってアートって何なんでしょうか?

滝町
「初動性」みたいなもんなんかなと。小さな爆発みたいなもん。物事の始まり。そういうことにしたら、「その人が生き生きと輝いてる瞬間」ってのも含まれるし、宗教や伝統のこととか考えてみても、腐った部分でなくキラキラ光ってる部分だけを拾えるやん。

イシワタ
な〜る〜ほ〜ど〜。

滝町
僕は絵っていうてもシューッとした落書きみたいなもんが好きやねん。技巧に走る前の、ただ描いてる楽しさみたいな。過激でものめずらしい表現をアートって呼ぶこともできるけど、僕はキラキラしてる方がいい。そうしたら、年齢とかいろんな境界を越えて、誰しもが経験したことのある事柄を扱えるっちゅうか。

イシワタ
滝町さんと話すといつもキラキラした気持ちになるんだけど、そのキラキラは全然うまくまとめられないんですよね。

滝町
そういうのを求めてるとこあるからね、「結局何もない」っていう。やし、僕は搬入よりも搬出で何もなくなった時がいちばん好きやねん。「あ、きれいになった」と思うねん、いっつも。

※1 大学生のなんとか展

滝町

これなんですけど、後から考えたら大学生に失礼なので訂正してもらえないでしょうか?言わんとしてるのは「キツイ表現が嫌だ」 という事なんですが、それは大学生に限らずにほぼ全ての事に対して思ってるんです。「自己表現」ってのは、大袈裟な事をするという事ではなく、過度な表現を落としていった後に残るその人の癖みたいなもんかなと思います。だから頭でっかちな表現もキライです。大学生のと言ったのは、過度な自己顕示が強い上に技術も未熟なのが多いからなのです。でも、訂正してほしいと思った理由は私もそれを経験してきたので、自己顕示が強い時期を否定は出来ないなと思った次第です。

イシワタ・丸山カメラマン

訂正せずにその全文を載せましょう。

※2 リズムゲーム

丸山カメラマン

イシワタさんは滝町さんと話してる時がいちばん輝いてるんですけど、この「もっちゃりした女子がリズムゲームを素早く叩いていた姿が好き!」「分かります!!!」っていうくだりとか、おふたりにしかわからないですよね?僕はこれを読んでる人にも伝えたいんですよね。つまり、ここで出てくる “暗くて古いうらぶれたゲームセンター” って、格闘ゲームが主流だった頃の “ゲーセン” で遊んでいる人のイメージとは違う層の人たちが遊んでいることが多くて、プレーヤーはアニソンや K-POPに合わせて 1/100 秒単位の反射神経でボタンを乱打してる感じですよね。リズムゲームが上達しても楽器 を弾くことはできないように、楽器が上手に演奏できてもリズムゲームで高得点は出せないのであって、価値としては等価ですよね。ゲームが多様化して、ゲームセンターに社会の多様性を見ることができるようになった、みたいなことですよね。

イシワタ

よけい誰にも伝わらないよ。丸山さんってほんと理屈っぽいよね。

滝町

私としては、ゲーセンは「逃げ場」的な場所でもあると思ってます。世間が均一化してきてどこも明るく健全になってきてるけど、そればかりでは生きづらいと感じるので、逃げ場や地下的な感じのものがあって欲しい。極端な地下的なものは危険を孕む場合があるが、その中間的なグレーの部分を私は増やしたいな。

イシワタ

分かります!

(丸山カメラマン涙) (滝町つられて涙)

滝町 昌寛

絵描き

京都生まれ、福知山市大江町在住。友禅染職人の仕事を経て水墨画を学び、バックパッカーで旅をしたモンゴルやチベットで住民が馬上でマッチを使うのを見たのをきっかけにオリジナル絵柄マッチを作り始める。農業を学び福知山市大江町に移住したのち、丹波修験道山岳道場にて山伏となる。護摩焚きと畑を日課とするかたわら、ポップでキャッチーなイラストのマッチ箱が大ブレイクして福知山おみやげ人気ナンバー1に(このあたり調べ)。好きな歌手は川本真琴。青春真っ只中の魚座男子。

イシワタマリ(聞き手)

山山アートセンター代表、美術家。1983年横浜市生まれ、福知山市在住。慶應義塾大学で「スピリチュアリティにまつわる社会学」を学んだのち、2007年から2009年にかけて、スペイン北部バスクやベルリンで絵画やパフォーマンスなどの創作活動を行う。2015年以降、京都府北部~広く山陰地域=「このあたり」を舞台に、さまざまな人が力を持ち寄ってとにかく生きようとするプロジェクト「山山アートセンター」構想を展開。2018年より高齢・障害・児童の複合福祉施設Ma・ RooTs(みねやま福祉会/宮津市)広報兼アートコーディネーター。
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